変わるなかで変わらないもの

※主人公はFGOの女性主人公♀(ぐだ子)という設定です。男性主人公♂(ぐだ男)、及びオリジナルの主人公ではないのでご注意下さい。
※主人公の名前を公式名である「藤丸立香」としています。


ロストベルトを駆け巡るとある日の夜、ふと、藤丸立香は思案する。何度目かの溜め息を吐いた時にやってきたニコラ・テスラが立香に言ったことは……

TLで見かけた「ロンドンでの狂化」と言う単語からつらつらと。

■注意
●時期としては2章、ロストベルト以降の話となります。ロストベルトについての記述が若干ありますので、1章クリア後、2章攻略中または攻略後の閲覧を推奨します。


「はぁ……」
 日も落ち、間もなく就寝時刻である頃合い、シャドウボーダー内に特別にあてがわれた部屋のベッドに腰を下ろしながら、藤丸立香は溜め息を吐く。勢いよく腰掛けたからだろう、ベッドが大きくたわむ感覚が伝わる。
 目を閉じ、暫し思考を巡らせた後、再びはぁ、と大きな溜め息を吐く。
 そんな折、ふいに部屋のドアがノックされる。
「あ……はい、どうぞ」
 ふっ、と軽く息を吐き、頭を軽く振るとドアの方に視線を配る。ヒュン、と軽快な音を立てて開いた空間に佇んでいたのは、
「ごきげんよう、マスター」
「うっ、博士……ごきげんようございます」
 肩から掛けたコートをたなびかせ、英霊ニコラ・テスラが部屋へと入ってくる。
 碧い目で立香の顔を見やると、腰に手を当て、
「呻き声で迎えられるとは心外だなマスター。何やら思い悩んでいるように見受けられるが」
「別に……悩んでません」
 立香の淡泊な……つっけんどんとも取れる答えに、ニコラ・テスラは目を細める。
「君は存外愚かだな! サーヴァントがマスターの機微を感じ取れないと考えているならば改めるが良い」
「うっ」
 語調強めに言われ、思わず目を逸らす。ややして、溜め息が洩れ出るのが聞こえる。
 恐る恐る顔を上げると、ニコラ・テスラは部屋の入り口のまま、呆れたような顔で立香を見ている。
「……博士、怒ってます?」
「怒っているとも!」
 眉をしかめると、そのままつかつかとベッドに歩み寄り、立香の横に腰掛ける。ぼふり、とベッドが軋み、立香の体が微かに跳ねる。
「何か悩みがあるなら言葉にするがいい。私が適任でないのであれば、別の誰かでも良い」
「……」
「そのまま悩んでいると、私のように入れ替わり立ち替わり来客が来るぞ」
「うっ、それは……」
 入れ替わり立ち替わり、様々なサーヴァントが部屋に訪れるのを想像し、内心青くなる。
 それに、誰かに話すなら、どうせ話すなら、
(博士が良いな……)
 ちら、と横に目線をやると、
「……博士……わたしの、わたしたちのしていることは正しい……んですよね……?」
「? 何を悩んでいるかと思えばそのようなことか」
「……悩みますよ……だって、わたし……」
 立香は自身の両手の平を見つめる。
「わたしの……わたしたちのしていることって……」
 救済。
(ロストベルト……)
 突如降りかかった人類救済という重すぎる使命を背負い、突然矢面に立たされた。
 無我夢中で特異点を駆け抜け、ようやく人類焼却を阻止した矢先、現れた新たな脅威、顕現した新たな特異点──否、特異点とは異なる事象『ロストベルト』を再び駆け抜けながら、ふと立香の思考は立ち止まる。
(……わたしたちの行っていることは……正しいんだよね……?)
 ロストベルトの存在は、立香を始めとした“凡人類”側にとっては除去せねばならぬ事象である。同時に、ロストベルトを除去することは、ロストベルトと言う事象そのものを文字通り“根こそぎ”除去する行為である。
 本当に自分の行っていることは人類救済につながる行為なのだろうか、ロストベルトに生き、新たな歴史を刻む存在を蔑ろにすることは本当に人類にとって正しいことなのだろうか。
(……そんなの……わかんないよ……)
 なるべく考えないようにしてきた、あまりにも重すぎる使命とふと向かい合い、唐突に押しつぶされそうになる──立香の手にニコラ・テスラの手が重なり、はっと顔を上げる。
「──リツカ。以前、特異点となったロンドンで私が行ったことを覚えているかな?」
「……はい」
 特異点・ロンドン。特異な状況で敵対していた存在に召喚されたニコラ・テスラは狂化を付与され、本人の意思をねじ伏せロンドン、ひいては世界の破壊の為に動いた。
「……あれは……博士であって、博士じゃなかったですから」
「いや、間違いなくあれは私だ。異常召喚と言うだけで、ああも私は変わるのだ」
 そう話すニコラ・テスラの顔を見上げると、立香を真っ直ぐ見やる目線と目線が重なる。
「しかしマスター、問おう。私は、何の躊躇も無く、世界を破壊せしめんとしたか?」
「それは……」
 あの時の、敵として対峙したニコラ・テスラの姿を思い起こす。
「……博士は、強かったし、恐かったです。でも……なんだろう、違和感がありました」
 そう、あの時のニコラ・テスラは今、カルデアで見ている、自身の描く世界の為に真っ直ぐ突き進む彼とは違っていた。
「破壊の為に呼ばれて、それを自覚していたのに、まるでそうでないような……」
「それだ、マスターよ」
 ニコラ・テスラは嬉しそうに目を細める。
「たとえどのような状態で喚ばれようと、私と言う基質は大きく変えられないのだよ。
 あの時私は破壊を破壊する為に動いたが、真に望んでいた訳ではない」
 世界を破壊せしめんとしたニコラ・テスラの行為は結果として阻止されたのだが、それはカルデアの力がニコラ・テスラを上回っていたと言うより、ニコラ・テスラ自身が狂化を付与されてなお抵抗していたからでもある。
「なればこそ、今君が抱える悩みにも答えが出ていよう」
「えっ……答え、出てます……?」
「ああ。……あまりに陳腐な答え故、私の口から答えることは憚られるがね!」
「えっ、教えて下さいよ……!」
「ははは!」
 軽快に笑うと同時、ぐだ子を抱き寄せる。
「……!」
 そのまま立香の耳元で、ニコラ・テスラの口から囁くように言葉が紡がれる。
(えっ)
 言い終わると、何事も無かったように腕が解かれ、ニコラ・テスラは立ち上がる。
「さぁ、もう眠るが良い。明日も早いだろう。私も来たるべき戦いに向けたチューニングが待っているのでね」
「博士……」
「おやすみ、マスター」
 たなびくマントに名残惜しそうに手を伸ばすが、ニコラ・テスラは振り返ることなく部屋を出てしまった。
「……」
 一人残され、そのまま倒れるようにベッドに横たわる。
 立香の頭の中で、囁かれた言葉が繰り返される。

 ──ありのままであれ。変わらぬ君を、私は愛しているのだから。

「う~~~~~!!!」
 時間差で顔が赤面するのを感じながら、うつ伏せのまま、枕を音が出るほど叩いていた。
「ずるい! 博士の! ……馬鹿……!」
 最後は枕を顔に押し付け、熱が冷めるまでそのまま丸くなっていた。

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