君の笑顔

※主人公はFGOの女性主人公♀(ぐだ子)という設定です。男性主人公♂(ぐだ男)、及びオリジナルの主人公ではないのでご注意下さい。
※主人公の名前を公式名である「藤丸立香」としています。


何やら巨大機関を開発中のニコラ・テスラの元を訪れた藤丸立香。彼を手伝う訳でもなく佇む立香の頭には、先日掛けられたとある言葉が浮かんでいて──

5/9に追加されたとある方の幕間を見て滾ったので。
ネタバレに配慮した結果、誰の幕間かすら書けずにいますがこの時点でピンと来た方はお楽しみいただければと思います。
と言っても読んでいなくても大丈夫だとは思いますが、そこは自己責任にてお願い致します。
※下の「read」以降で誰の幕間かについては記載しています。
 上記の文で検討が付かない方は、以降ネタバレとなりますのでご注意下さい。


■注意
以降は5/9に追加されたフランシス・ドレイクの幕間 第2節の内容を含みます。直接ストーリーの内容を描写はしていませんが、幕間読了後の閲覧を強く推奨します。


「入りたまえ。……ふむ、マスターか。君がこのような時間に訪れるとは珍しい」
 ノックと共に開かれたドアをちら、と一瞥した後、再び手元に目線を落とし、男は言う。
「こんばんは博士」
「ああ、こんばんは」
 こちらを見ずに一心不乱に機械に向き合う男……長いコートを床に畳み込み、青い光に照らされた希代の天才、ニコラ・テスラ……は挨拶を返す。
 カルデアの一室、ニコラ・テスラが巨大機関の開発に日夜勤しむ部屋に、カルデア唯一のマスターである藤丸立香は足を踏み入れる。
「相変わらず凄い……」
「ふふ、そうだろう? 見ているが良い、そう遠くない未来にこの機関が完成し、轟音を唸らせ、交流の光がカルデア、ひいては世界を駆け巡るのだ!」
「停電に気を付けて下さいね?」
「無論だ、天才たる私にぬかりは無い」
 いつぞや出力を最大にした結果、カルデア中の電力を落としてしまったことを含ませつつ、立香は壁際から開発の様子を眺める。
 時折バチバチと音を立て、その度に長い髪やマントを軽くたなびかせていたが、やがてニコラ・テスラは機材を置き、手を休める。
「……して、ここに居ると言うことは私に何か要かな?」
「あ、えっと……用、と言うか」
 ニコラ・テスラは立ち上がると軽くコートをはためかせ、ゆっくりと立香の元へと歩み寄る。
「最近君はしばしば研究・開発の手伝いの為にここに来るが、決まって開口一番手伝いを申し出る。今日はそれが無いと言う事は、用件は別にあると言うことだろう」
「あ」
(図星だ)
 その気持ちが余程顔に出てしまったのだろう、ニコラ・テスラは腰に手を当てて続ける。
「ふむ、素直なのは良いことだがこうも分かり易いのはいささか心配になるな。
 ……立ち話も何だろう、何か淹れよう。リクエストはあるかな?」
「あ、私が淹れますよ」
「構わん。君はそこに掛けて待ちたまえ」
「じゃあ……紅茶で」
「分かった」
 近くの椅子に腰掛けて暫し待つと、やがて二人分の紅茶を入れたニコラ・テスラが戻ってくる。
「丁度私も休憩にしようと思っていたところでね。そう言う意味では実にタイミングが良い」
「それなら良かったです」
 ニコラ・テスラが紅茶に口を付けたのを見てから立香も紅茶を口に含ませる。
「……あ、美味しい」
「当然だ、交流で沸かしたお湯を用いたからな」
 自信ありげに言いながらカップを置くと、
「して、用件は何かな?」
「……え?」
「君がこのような夜更けに訪れた理由だ。本来であれば既に就寝している時間であろう?」
「あ……そうなんですが……」
「何、君を責めている訳ではない。しかし君は今この世界で最も重要な人であり、自身の体調管理には最大限気を遣うべきだ。何より夜更かしは美容にも良くないぞ」
 真顔でさらりと言われた事に思わず立香は笑う。
「そこは気にしなくて大丈夫ですから!」
「大事な事だぞ。君の未来を案じる人間がここには沢山居るからな。私もその一人だ」
「……」
 知的さを讃えた碧眼が真っ直ぐ立香を見やる。
「……あの、実はですね……笑わないで下さいね……?」
「言ってみなさい」
「……博士がこの前言ったことが気になって……」
「……この前?」
「その……」
 しどろもどろになりながら立香は言う。
 先日、偉大なる冒険家であり大海賊であるフランシス・ドレイクと共にレイシフトを行った。
 その際、“星の開拓者”としてニコラ・テスラも同行したのだが、その旅の終わり間際、ニコラ・テスラが立香に向けて言った言葉がある。
 その言葉が、日を置いてなお、立香の頭に焼き付いて離れない、と。
「成る程、そこまで私の言葉をしっかりと受け止めて貰えているとは私としても大変喜ばしい」
 立香の懸命な告白を受けてニコラ・テスラは満足げに微笑む。
「自惚れだー!?」
「何、天才たる私の紡いだ言葉だ。存分に重く受け止めたまえ」
「今、言うんじゃなかった、って気持ちになりました!」
「はは、照れる君は一層可愛いな」
「……!?」
 楽しそうに破顔しながら放たれた言葉に、立香の顔はカッと熱を帯びる。
「だ、だって博士が鳩のようとか、意味深なことを言うから……!」
「何、私は日頃から思っていた事を言ったまでだよ」
 そう言うと瞑目し、改めてゆっくりと目を開く。
「──リツカ。私にとって鳩、特に公園の鳩がどう言う存在か、君は知っているかな?」
「……」
 即答できない。当然、知っているなどと本人を前に言えるはずが無く。
「……かつて私は一羽の鳩を愛していた」
 ゆっくりと、ニコラ・テスラは言葉を紡ぐ。
「彼女はとても賢く、愛らしく、美しくてね。聡明な彼女は呼べばいつでも来てくれたし、呼ばずとも私が想うだけで来てくれた。……先ほどの君がそうだ」
「……え?」
「とても偶然とは思えないものだ。もっとも、マスターとサーヴァントとはそう言うもの……そう言われてしまえばそれまでだがね」
 自身の指を絡め、続ける。
「君は天真爛漫で、愛らしく、時に優雅で時に破天荒だ。そんな君を見ていると、かつて愛し、先に旅立っていった彼女を思い起こさせる」
「……博士……」
「君が求める限り、私は君の期待に応えよう。世界を照らし、救わんとする君の光の糧となろう」
 向かい合うニコラ・テスラの手が、カップに添えられた立香の手を包み込む。
「……っ」
「だから君は、存分に微笑みたまえ。笑いたまえ。君の愛らしく優雅な笑みを、私は何より好むのだよ。……先ほど、私の淹れた紅茶を飲んだ時のような笑みをね?」
 目を逸らさず、真っ直ぐ注がれる言葉に、立香は耳の先まで赤くなるのを感じる。
「……博士は、ずるいですね」
「ずるい?」
「そんなこと言われたら意識しちゃうじゃないですか……」
「私の期待に応えてくれるならばそれは結構」
 立香の手を包んだまま、ニコラ・テスラは笑みを深める。
「マスターとサーヴァント、一方的ではなく双方が向かい合うのが最前の関係性だと思わないかね?」
「……思いますが……」
「ならば今後とも君は私の側に居なさい。何、私は天才だ。交流の力でもって、あらゆる事象から君を護り抜くと誓おう!」
「……はい、宜しくお願いします」
「宜しい。……今日はもう遅い。これ以上の夜更かしは君のコンディションに影響するだろう」
 手がふわりと離れると、ニコラ・テスラは立ち上がる。
「はい……紅茶、ご馳走様でした。美味しかったです」
「それは良かった。またいつでも淹れてあげよう」
「次は私が淹れます。博士より美味しく淹れてみせますね!」
「そうか」
 同じく立ち上がった立香の側に寄ると、ぐっと身をかがめて耳元で
「……楽しみにしているよ」
 そう囁くと、立香の顔は再び真っ赤に染まる。
「博士ー!」
「ははは! さあ寝よう、私ももう一仕事したら一旦休むこととしよう」
「うう……博士も、あまり根詰めないで下さいね」
「何、折角サーヴァントとなったのだ。やりたいことを思う存分やらせて貰うまでだよ」
 入り口まで立香は戻ると、
「何を作っているか分かりませんが、楽しみにしていますね」
「ああ、楽しみにしたまえ」
「ふふ……おやすみなさい」
「おやすみ。良い夢を」
 軽く手を振ると、静かにドアが閉じられる。
 ニコラ・テスラは暫し余韻に浸った後、ゆっくりと振り返る。
 開発室を大きく占有する巨大な物体……電気の力で空を走る舟のプロトタイプを碧い目に映す。
「……さて、もう少し進めるとしよう」
 世界でただ一人のマスター……純白の鳩に似た彼女が舟に乗り、髪をなびかせる姿を脳裏に浮かべ、ニコラ・テスラは独りごちた。

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