『手を握ったまま眠っているウィル主』

部屋が白み出す時刻、おもむろにウィルが目を醒ますと、目の前には彼女の顔があって──

と言うお題を受けて。
久々に名前変換無し、割と短めです。


「……ん……」
 部屋全体が夜明け前の微かな陽の光で輪郭をおぼろげに映し出す頃合い、ゆっくりと僕の意識は浮上する。
 部屋を見渡すより先に視界いっぱいに入ってきたのは、君の寝顔。
──無防備だなぁ。
 眼鏡を掛けていなくても分かる、君の無防備で安らかな寝顔。
 僕と君の間、二人を繋ぐように手が握られている。
 力がこもっていなくても分かる、華奢で滑らかな君の手。
──脅かしたいなぁ。
 寝起きに君を脅かせば、君はさぞ怒るだろうけど、きっと最高の表情が貰える。
 僕の大好きな、恐怖に引きつった君の表情。
 そんなことを考え、少し……ほんの僅かだけ体を動かすと、握られた手に微かに力が入るのを感じた。
「……あ……」
 起こしてしまったのだろうか。
 全身に緊張が走り、擦れた声が喉から零れ出た。
 固唾を呑んで彼女の動向を見守るが、彼女は目を開けることなく僕の手をそっと引き寄せると、やがて再び静かな寝息を立て始めた。
 ふぅ、と溜め息を零すと、僕は全身の力を抜く。
「……参ったなぁ」
 君は、ずるい。
 僕はずっと、人が作る表情の中で恐怖に引きつった顔こそが最高の表情であり、それ以上のものは無いと思っていた。
 思っていたのに、君を見ていると、もっと色んな表情が見たくなる。
 驚かされて涙目になった顔、怒った顔、笑った顔。僕を見て、はにかむ顔。
 そして今は、僕に心を許した無防備な寝顔。
 君は、ずるい。もっともっと、色んな君を見たくなる。
 ……一体どれくらい経っていただろう。徐々に白んでいく部屋の片隅で、彼女の安らかな寝顔をたっぷりと堪能する。
 もっともっと、これからもずっと、君の色んな表情を僕に。
──約束だよ。
 繋いだ手が離れぬように、指をゆっくりと絡めると、再び僕は夢の中へと落ちていった。

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